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試行錯誤の備忘録β版

情報処理技術者試験 午後Ⅱ 論述式試験(論文)の攻略法① ~構造化ライティングのススメ~

私のような文章作成が苦手な人にとって、情報処理技術者試験における午後Ⅱの論述式試験は拷問です。

 

情報処理技術者試験における午後Ⅱの論述式試験は、2,500字の論述を120分以内に書き上げなければなりません。合格するためには、この制約の中で一定の品質基準を満たす文章を書く必要があります

文章を書き慣れている人や、文章作成のスキルがある人であれば、本試験に特化した対策を行えば合格できるかもしれません。しかし、文章を書くのが苦手な人や書き慣れていない人にとって、2,500字の執筆は心理的にもスキル的にもハードルが高く、まず途方に暮れることでしょう情報処理技術者試験の高度区分を受験するスキルがある人であっても、文章作成が苦手な人は参考書の対策だけで合格できるようになりません。

 

この記事では、午後Ⅱの論述式試験に合格するための「文章の書き方」について記します。

 

私がシステムアーキテクト試験に向けて実際に行った対策の全体像は、以下の記事を参照してください。

litmot.hatenablog.com

 

目 次

 

 1 午後Ⅱの論述式試験に合格するための条件は?

午後Ⅱの論述式試験の解答に求められている要件はなんでしょうか。

私の想定している合格の条件は以下の3つです。

  • 設問の要求を満たしている
  • 採点者が理解できる文章である
  • 記述全体を通じて論理に一貫性がある

 

この中でまず重視すべき条件は、2つ目の「採点者が容易に理解できる文章である」です。ここができていないと、採点者から評価されません。採点者が理解できないと、他の条件が完璧に満たせているかどうか判断できないためです。

小論文などの文章作成が得意な人は、この条件を既に満たしています。しかし、文章作成が苦手な人がこの条件を達成するのは案外難しいのです。それは、理解しやすい文章がどういうもの意識してこなかったためです。

 

理解しやすい文章の作成には方法論があります。文章作成が苦手な人が最初にやるべきことは、理解しやすい文章を作成する方法を身につけることなのです。

 


2 構造化ライティングとは?

理解しやすい文章の作成方法として、構造化ライティングをおすすめします。構造化ライティングとは、文章構造の型を学び、型に沿って文章を設計、記述する手法です。

この手法は、ソフトウェア設計のアプローチと同じです。文章を大構造、中構造、小構造と順に分割し詳細化したのち、この構造に沿って文章を作成していきます。これは方式設計、機能設計、詳細設計、プログラミングと全体から詳細を検討していくソフトウェア設計の考え方と同じです。

 

文章作成もプログラミングと同じで、設計せずにいきなり書き始めると品質が悪化します。品質の悪い文章というのは、つまり可読性が悪く、理解しにくい文章のことです。設計資料を作っておかないと、最初の目的と異なる文章が出来上がることもあります。この場合、試験は不合格でしょう。

プログラミングの場合は修正が容易であり、手戻りが発生しても多少であればリカバーできます。しかし、論述式試験は手書きのため修正が難しく、制限時間も厳しいため、手戻りは致命的です。つまり、論述式試験において重要なことは、上流工程で品質を確保し、手戻りを発生させないようにすることです。


また、ソフトウェア設計と同じようにライティングにも型があります。ライティングの型を身に着けておけば、可読性の高い文章が早く作成できるようになります。

ライティングの型は文章の種類によって異なりますが、午後Ⅱの論述式試験に適用すべき文章の型は、小論文やレポートの型です。特に、設問回答型と呼ばれる小論文の出題形式は、午後Ⅱの論述式試験と類似点が多く、論述のアプローチも参考になることが多くあります。これらの型を勉強するための本はたくさんあり、勉強するためのコストは高くないため、一度勉強してみることをオススメします。

 

ここからは、午後Ⅱの論述文に特化したライティングのプロセスと型を記述します。

 

 

3 構造化ライティングのプロセス

午後Ⅱの論述式試験の解答作成作成は、以下の手順で行います。()内はソフトウェア設計に置き換えたときのプロセスの位置付けです。

  1. 見出しの設定(方式設計)
  2. 論述内容の設計(機能設計)
  3. 段落の設計(詳細設計)
  4. ライティング(プログラミング)

特に重要な工程は「2.論述内容の設計」です。ここの品質が文章全体の品質を左右します

本番では時間が限られている中で手書きで記載するため、「2 .論述内容の設計」に不備があっても工程を戻ってやり直す余裕はありません。答案用紙の空白を使用して「2.論述内容の設計」まできっちり行い、入念に確認してから解答を書き始めてください

 

3.1 見出しの設定 〜 方式設計

まず初めに、見出しの設定を行います。見出しの設定では、設問および問題文に記載されている要件を満たすための文章の構造を考え、見出しの単位(章・節)に分割するとともに、見出しのタイトルを決定します。

設問と問題文には合格のための要件が記載されており、試験に合格するためにはこれを網羅する必要があります。ソフトウェア設計に置き換えると、顧客要件を実現するためのシステム方式を検討する方式設計に該当します。

 

オススメは、設問にある要求をもれなく抽出し、抽出した要求から見出しを設定するという方法です。これは午後Ⅱの論述式試験対策の王道であり、ほとんどの参考書に記載されています。

 

具体的には、1つの設問に対し章を設定します。そして、設問で要求されている各項目を節に設定します。

例えば、令和元年度システムアーキテクト試験 問1の

設問ア あなたがUIの設計に携わった情報システムについて,対象業務と提供する機能の概要,想定した利用者の特性及び利用シーンを,800字以内で述べよ。

の場合、見出し(章・節)は

1 UIの設計に携わった情報システムについて
1.1 対象業務の概要
1.2 提供する機能の概要
1.3 想定した利用者の特性及び利用シーン

のようになります。

この工程は、慣れれば機械的に実施することができます。設問で要求されている各項目をそのまま節に設定するだけなので、そんなに難しくありません。

 

この方法のメリットは2つあります。

1つ目は、設問の要求を網羅しやすくなることです。要求の抽出を通じて、何を書けばいいのか漏れなく把握でき、要求を満たす文章の構造が作りやすくなります

2つ目は、どこに何が書いてあるかわかりやすくなるため、可読性が向上することです。もしも見出しの設定を行わないと、設問の要求を満たす部分や、文章の切れ目がわかりにくくなり、よほど文章力が高くないと読み手(採点者)が読みづらい文章となります。

 

3.2 論述内容の設計 〜 機能設計

節ごとの文章構造および内容を決定します。具体的には、段落で構成と、それぞれの段落で記述するポイントを決定します。

オススメは以下の構造です。特に設問イ,ウで効果を発揮します。

  1. 応答
    見出しのタイトルに対する応答を簡潔に記述します。いわゆる「結論を先に書く」というやつです。例えば、見出しのタイトルが
     プロジェクトの概要
    であれば、
     記述対象のプロジェクトは、〇〇〇〇である。
    のように記述し、
     重視したユーザビリティ
    であれば、
     設計において重視したユーザビリティは、〇〇と△△の2つである。
    のように記述します。具体的な説明は後で行うので、ここでは「要するに、一言でいうと何なのか」を記述します。

  2. 根拠(設問イ,ウ)
    1.で示した応答の根拠を記述します。

    設問イ,ウで問われる「検討したこと」「行ったこと」「工夫したこと」「評価」に対し、どうしてそう考え、そうしたのかを説明します。ここで、試験区分の知識に加え、これまでに説明した状況や制約事項を踏まえ、その判断が妥当であることを示します。
    ここで判断した根拠となる状況や制約事項は、設問アや設問イの初めなど事前に記載しておくのがベストです。この時点で新たな情報を説明してもよいですが、理由が後付けされたように感じられることがあるため、できるだけ避けましょう。
    根拠は複数あるほうが説得力が増します。多角的に検討したことが伝わり、応答が客観的に正しいことがアピールできるからです。午後Ⅱの論述式試験の場合は、字数制約や時間制限なども考慮すると根拠を2つ挙げられれば十分です。

  3. 具体的記述
    1.で示した応答について具体的に説明します。

    1.では要約を示しているので、状況、思考、行動を読み手がイメージできるように詳細を記述します。5W1Hを記載するようにしてください。
    ここで記載することの例としては、検討した経過実施した内容の詳細や手順実施した結果などがあります。

 

見出し内の設計が一通り完了したら、内容のつながり、矛盾、論理の飛躍がないか確認します。ここで品質を向上しておくと、この後の工程がとても楽になります。以下の観点で確認してみましょう。

  • 応答が設問に対する回答になっているか
  • 根拠が応答に対するものになっているか
  • 具体的記述が応答に対するものになっているか
  • 見出しごとの応答を並べ、話が飛躍している部分がないか

ここまで完了したら、答案用紙に解答を記入して行きましょう。

 

3.3 段落の設計 〜 詳細設計

次に各段落の設計を行ないます。

1つの段落で伝えるメッセージは1つとしましょう。これはパラグラフ・ライティングと呼ばれる一般的な文章作成技法の1つです。パラグラフ・ライティング飲み取り上げた本も複数あります。

実際、段落の設計は書きながら行っていくことになります。段落内の文の構成を予め決めておくと、文章作成の時に悩まなくて済みます。おすすめは以下の構成です。

  • トピックセンテンス
    その段落で言いたいことを最初に記述します。見出しの設計と同じく、結論を先に言います。段落の先頭だけ拾い読みしていけば、概要を理解できる文章が理想です。
    見出しの設計で決めた話題、メッセージをトピックセンテンスとするのが基本となります。
  • セカンドセンテンス
    必要に応じて、トピックセンテンスとサポートセンテンスを繋ぐセンテンスを記述します。例えば、「これには2つの理由がある。」や「具体的には、次の手順で行った。」などのような文章です。トピックセンテンスからサポートセンテンスへの誘導を行うことで、文章の流れがスムーズになります。
  • サポートセンテンス
    トピックセンテンスに示した事をサポートするセンテンスを記述します。サポートセンテンスは複数記述することが望ましいです。また、サポートセンテンスは段落ごとに一つの構造としてください。構造は、主に「情報を並列に記載する」「情報を時系列順に並べる」「論理を展開する」の3つがあります。
  • コンクルージョンセンテンス
    必要に応じて、トピックセンテンスで記述したことを繰り返し述べてください。
    例えばサポートセンテンスに理由を並列で挙げた場合、「以上の理由により、〇〇(トピックセンテンス)と判断した。」などと記述します。

上記のうち、重要なのは「トピックセンテンス」と「サポートセンテンス」です。「セカンドセンテンス」と「コンクルージョンセンテンス」は必須ではありませんが、強調したいメッセージがある場合に記述すると効果的です。

この構成を使えるように練習しておくと、筆が止まらずに読みやすい文章がかけるようになります。使えるようになるまで練習しましょう。

 

2.4 ライティング 〜 プログラミング

段落を構成する文の作成は、以下を意識しましょう。

  • 1文は短く。40字以内を目安とする。
    -長くなる場合は分割を検討する。
     トピックセンテンスが2つの文になっても良い。
  • 主語と述語を対応させる。
    ー主語と述語だけ抜き出して、主語と述語の関係になっているか確認する。
  • 用語を統一する。
    ー同じ単語が連続で出てくると違う単語で言い換えたくなるが、読み手が理解しづらくなるのでNG。
  • 禁則処理を行えているか。
    -段落の最初は字下げを行う。句読点や()を次の行の最初に書かない。最後に「以上」と書く。等

 

3 構造化ライティングの実践

構造化ライティングを実践できるようになると、合格のための条件の1つである「採点者が容易に理解できる文章となっていること」を自然と満たせるようになります。また、他の条件を満たすための素地にもなります。論述式試験の回答を記述するイメージも掴めるはずです。

 

ここで1度過去問をやってみて、イメージ通りに回答が書けるか確認しましょう。

過去問をやってみて、つまづく部分や書きにくい部分がある場合、以下の条件のいずれかを満たすための知識や準備が必要です。

  • 設問の要求を満たしていること
  • 記述する状況下において、筆者の主張や行動が論理的に正しいこと

次の記事では、これらを満たすための準備について記載します。

4 まとめ

この記事では、構造化ライティングの方法や考え方について紹介しました。

 

構造化ライティングのスキルは午後Ⅱの論述式試験だけでなく、一般的な文章作成全般に適用できるものです。この文章作成技術を身に着ければ、試験合格がグッと近づくだけでなく、今後の人生が豊かになることでしょう。このことに気づかせてくれた午後Ⅱの論述式試験に、私は感謝しています。

 

この記事だけでは不十分だと感じた方は、文章作成技術に関する本を読むことをおすすめします。以下に紹介しますので、参考になれば幸いです。

 

入門 考える技術・書く技術――日本人のロジカルシンキング実践法

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小論文・レポートの書き方 パラグラフ・ライティングとアウトラインを鍛える演習帳 (人の森の本)

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改訂版 答案添削例から学ぶ 合格できる小論文 できない小論文

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上記の本のうち、2冊目と3冊目は筆者のWebサイトにもほぼ同じ内容が載っています。節約したい人はこちら。

ronbunonline.com

shouronbun.com